紀伊半島の環境保と地域持続性ネットワーク 紀伊・環境保全&持続性研究所
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  本の紹介

   本間義人 著: 地域再生の条件 

                2007年  岩波新書  222頁

 (本の構成)

  はじめに
  第1章 なぜ、地域再生なのか
  第2章 人権が保障された地域をつくる
  第3章 地域産業で生活できる地域をつくる
  第4章 自然と共生し、持続可能な地域をつくる
  第5章 ヨコ並びでない地域をつくる
  第6章 住民の意思で地域をつくる
  第7章 地域再生に向けて
  おわりに     

(書評)
 
 著者は、まず、疲弊する地域の状況、すなわち、公共交通機関が不便になり、商店街が衰退し、農村環境が変化し、農家が苦悩していることなど、各地で共通的に進行する状況を報告している。こうした中で、2005年に「地域再生法」が成立し、地方分権が進められているが、少子高齢化、過疎化が止まらず、崩れゆく多くの地域で地域再生のあり方が問われている。

 著者は、地域再生において目指すべき原理・原則として、(1)全ての人々の生活基盤が保障された地域に作り直す、(2)人々がその地域の仕事で生活し得るようにする、(3)自然と共生し得る地域にする、(4)国の主導により地域を作り直すのではなく、そこに住む人々自身により再生を図るべきことを挙げている。

 著者は、地域再生に必要なこととして、上記の4つのポイントを挙げているが、本書の構成(目次)を読んでも、その言わんとすることが伝わってくる。さらに、付け加えるならば、過去に行われてきた国土計画や地域政策がなぜ地域を活性化できなかったのか、その理由を確かめ、今度はその誤りを繰り返さない覚悟をもって地域再生にあたることが重要であると述べている。

 農山村に関連することでは、農山村地域で第1次産業が衰退しつつあり、過疎化、高齢化が進んでいる。こうした中で、全国一律の農政から脱却し、脱コメ農業と地域独自の農業を展開する必要性が強調されている。そして、脱コメ農業によって豊かさを追求している幾つかの地域が紹介されていて参考となる。

 地域において水田等の農地の集約化が押し進められているが、今年の米価の低下傾向を見ても、米消費の減退が続き国際化の進む中で、今後、米価は低下こそすれ上昇に転じることは当面考えにくい。そうした中で、水田等の規模拡大だけでわが国の農業が再生できるかというと、それは幻想であろう。様々な創意工夫をして付加価値が高く、地産地消を志向し、地場の農産加工と結びついた多種多様な農業を展開していくことが必要になっていると筆者は考える。このためには、地元の農家、行政、農協、一般民間人等で、これを推進できる人材を確保、育成していくことに注力するとともに、行政からの地場産業育成への財政面を含めた「てこ入れ」が必要だろう。農山村は、就職先が少ないこともあり、小学校から高校までせっかく教育した人材を惜しげもなく都会に送り出している。地元に留まり、地場産業おこしを志す人材が育つように学校教育との連携を強めることや、若い人の雇用機会を増やすようなコミュニティービジネスの育成、地元特産物開発などへの地元行政の積極的な取り組みが重要であると思う。

 著者は、林業においても、食べていけない状況が全国的にみられ、これが山間地の過疎化の原因となっていると述べている。本書では、三重県大台町宮川(旧宮川村)で自治体が出資して第3セクターを設立し、地域住民の雇用の場を創出するとともに、地場産業育成、商品開発などに努力している状況が報告されている。

 著者は、地域再生とは、人々がそこで生活できる地域をつくるということであり、このためには、従来のような国主導の補助金による「箱物」など物的な事業によってではなく、自立した暮らしを営める地域となり得るかどうかといった視点から、経済的価値および非経済的価値の両方を考え、それぞれの地域の市町村自治体と地域の人々が協働して、「住みやすい福祉の地域」を作りあげるべきであると述べている。

 本書を読むことによって、地域再生に当たって考えるべきポイントを頭の中で整理できる。地域再生の動きの具体的事例が紹介されているが、新書版ということもあってその数は少なく、特に「地場産業で生活できる地域づくり」についてはイメージが湧きにくい。しかし、地域の置かれた状況や条件はそれぞれ異なっているので、それぞれの地域の特徴に応じた実践によってその形を作っていくしかない面もある。本書は、地域再生の熱い志を持った人々が、関係する情報を集め、人を集めて地域再生を進めていくための共通認識を作っていくのに役立つと思われる。
(2007.11.22/M.M.)


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